「ゾーン」の感動 [車・バイク]
心・技・体を極めたスポーツ選手が、通常の実力ではどうあがいても望む目標を達成できず
無心に全力で行わなければならない特別な状況下で「ゾーン」と称される領域に入ることがある。
「ゾーン」ではその選手の100%の能力を明らかに超え、
奇跡としか思えないスーパープレイが生まれる。
めったにお目に掛かれないが、見るもの(特にライブで見た場合)は必ず感動し
「伝説」と称される。
ジャンルは様々だが、例えばモータースポーツなら
1992年 F1モナコGP セナvsマンセルのラスト5ラップ。
この年はマンセルが所属するウィリアムズ・ルノーが圧倒的なマシンを作り上げ、
セナが所属するマクラーレン・ホンダは劣勢に立たされていた。
マンセルは開幕5連勝、PPも取りほぼ確実に優勝するとみられていた。
しかし、レース中に勝利の方程式の歯車が狂う。
レース終盤残り6周で、トップを走っていたマンセルがセンサートラブルによるタイヤ交換のため、
ピットインを余儀なくされる。
交換後出てきた時には、2位を走っていたセナに抜かれ、5秒後方で復帰。
普通ならもうあきらめるくらいの差なのだが、マンセルはタイヤもろくに温まっていないのに
ファステストラップを連発、わずか3周でセナの真後ろに着けてしまう。
それもそのはず、予選タイムはセナより1.9秒も早かったのだ。
ここからセナとマンセルによる「神の戦い」が始まる。
モナコは市街地コースなので幅が狭いうえに両脇の壁が迫り、ミリ単位のコントロールが必要。
そこを最高時速250km/hで走りながら、史上最強マシンとその年のチャンピオンドライバーが
全力で攻めてくるのを最高のテクニックで防ぎきらなければならない。
マンセルは文字通りありとあらゆるコーナーで仕掛け、セナはその全てを防ぎ切った。
超絶技巧というのはああいうレベルのことを差すのだろう。
今見返しても鳥肌が立つくらいの名勝負だった。
または1991年 WGP500ドイツGP レイニーvsシュワンツ
1980~90年代、アメリカンライダーがオートバイレースを席巻しており、
二人は新世代の実力者としてAMA時代、そしてWGPデビューしてからも他を圧倒する勢いだった。
レイニーは完璧主義者の秀才タイプ。そつなくまんべんなく速い。
それに対してシュワンツは奇想天外な天才タイプ。ツボにはまった時の強さは誰にも止められない。
彼らは数々の名勝負を繰り広げたが、一番強烈な印象に残っているのがこのドイツGP。
舞台となるホッケンハイムサーキットは超高速のストレートと
スタジアム付近のテクニカルなインフィールドで構成されている。
レース序盤はパワーに勝るホンダのドゥーハンが独走、このまま逃げ切るのか?と思いきや
そのパワーが災いしてタイヤのトレッド剥離が起きリタイヤ。
2位を走っていたレイニーがそのまま首位に立ち、ラストラップまで順調にリード。
ところが、真後ろで虎視眈々とシュワンツが隙をうかがっていた。
直前まで何回か仕掛けたが、どうしてもストレートの速いレイニーを抜けない。
最高速は320km/hにも達する、インフィールド直前のストレートエンドからのブレーキング。
ここでシュワンツは勝負に出る。
徹底的に安全マージンを削った、伝説に残るフルブレーキングをレイニーに仕掛けたのだ。
リアはホッピングし、フロントサスは激しく上下し、マシンは左右に向きをくねらせ、
暴れ馬のようにコントロールを失って、誰がどう見ても「絶対転倒してクラッシュだ」と
背筋を凍らせた。(現にレイニーは巻き込まれないよう少しアウト側によけてしまった)
ところが、シュワンツは、神のごとく超人的なコントロールでしのぎ切る。
慌てるレイニーを後ろに従え、テクニカルなインフィールドを完璧に抑えチェッカーを受けたのだ。
今のMotoGPと異なり、とてつもなく乗りにくいマシンだったGP500マシンであれほど激しいバトルをした二人は、間違いなくゾーンに入っていた。
モータースポーツではないが、もう一つゾーンに入っていたと思う事例は
2014年ソチ五輪フィギュアスケート女子の浅田真央の演技だ。
この年、浅田は周囲の反対を押し切り、難易度の高いトリプルアクセルを取り入れていたが
なかなか成功率が上がっていなかった。
そしてオリンピック本番、ショートプログラムで調子を崩し、全ジャンプを失敗。
自己ワースト16位となってしまう。
普通なら自暴自棄になってしまうところだが、ここからが浅田真央の凄いところ。
周囲のアドバイスもあり、見失っていた自分を取り戻す。
得点差からメダルは絶望、もはや失うものは何もない。自分が納得いくまで徹底的に攻めた。
冒頭にトリプルアクセルをシーズンで初めて決め、続いて苦手だったルッツとサルコーの3回転も着氷。トゥループ、ループ、フリップを含め、すべてのジャンプを成功させた。
オリンピック史上、6種類全部のトリプルジャンプを8回着氷した初の女子選手となった。
ジャンプだけではない。スピン、スケーティング、スピード、優雅な手足の動き、すべてにおいて
女子スケート史上最高の演技だった。
彼女の舞いは恐ろしく滑らかで、まるで指先からオーラがこぼれ落ちるように余韻があった。
そして、最後のポーズが終わった直後の泣き崩れた顔が、どれほどの想いを込めて滑っていたか、
そしてその演技がどれほどの完成度だったのかを物語っていた。
近年さまざまなジャンルのスポーツが停滞しており、このような感動から遠ざかっている気がする。
また、「ゾーン」に入った選手たちをこの目で見てみたい。
無心に全力で行わなければならない特別な状況下で「ゾーン」と称される領域に入ることがある。
「ゾーン」ではその選手の100%の能力を明らかに超え、
奇跡としか思えないスーパープレイが生まれる。
めったにお目に掛かれないが、見るもの(特にライブで見た場合)は必ず感動し
「伝説」と称される。
ジャンルは様々だが、例えばモータースポーツなら
1992年 F1モナコGP セナvsマンセルのラスト5ラップ。
この年はマンセルが所属するウィリアムズ・ルノーが圧倒的なマシンを作り上げ、
セナが所属するマクラーレン・ホンダは劣勢に立たされていた。
マンセルは開幕5連勝、PPも取りほぼ確実に優勝するとみられていた。
しかし、レース中に勝利の方程式の歯車が狂う。
レース終盤残り6周で、トップを走っていたマンセルがセンサートラブルによるタイヤ交換のため、
ピットインを余儀なくされる。
交換後出てきた時には、2位を走っていたセナに抜かれ、5秒後方で復帰。
普通ならもうあきらめるくらいの差なのだが、マンセルはタイヤもろくに温まっていないのに
ファステストラップを連発、わずか3周でセナの真後ろに着けてしまう。
それもそのはず、予選タイムはセナより1.9秒も早かったのだ。
ここからセナとマンセルによる「神の戦い」が始まる。
モナコは市街地コースなので幅が狭いうえに両脇の壁が迫り、ミリ単位のコントロールが必要。
そこを最高時速250km/hで走りながら、史上最強マシンとその年のチャンピオンドライバーが
全力で攻めてくるのを最高のテクニックで防ぎきらなければならない。
マンセルは文字通りありとあらゆるコーナーで仕掛け、セナはその全てを防ぎ切った。
超絶技巧というのはああいうレベルのことを差すのだろう。
今見返しても鳥肌が立つくらいの名勝負だった。
または1991年 WGP500ドイツGP レイニーvsシュワンツ
1980~90年代、アメリカンライダーがオートバイレースを席巻しており、
二人は新世代の実力者としてAMA時代、そしてWGPデビューしてからも他を圧倒する勢いだった。
レイニーは完璧主義者の秀才タイプ。そつなくまんべんなく速い。
それに対してシュワンツは奇想天外な天才タイプ。ツボにはまった時の強さは誰にも止められない。
彼らは数々の名勝負を繰り広げたが、一番強烈な印象に残っているのがこのドイツGP。
舞台となるホッケンハイムサーキットは超高速のストレートと
スタジアム付近のテクニカルなインフィールドで構成されている。
レース序盤はパワーに勝るホンダのドゥーハンが独走、このまま逃げ切るのか?と思いきや
そのパワーが災いしてタイヤのトレッド剥離が起きリタイヤ。
2位を走っていたレイニーがそのまま首位に立ち、ラストラップまで順調にリード。
ところが、真後ろで虎視眈々とシュワンツが隙をうかがっていた。
直前まで何回か仕掛けたが、どうしてもストレートの速いレイニーを抜けない。
最高速は320km/hにも達する、インフィールド直前のストレートエンドからのブレーキング。
ここでシュワンツは勝負に出る。
徹底的に安全マージンを削った、伝説に残るフルブレーキングをレイニーに仕掛けたのだ。
リアはホッピングし、フロントサスは激しく上下し、マシンは左右に向きをくねらせ、
暴れ馬のようにコントロールを失って、誰がどう見ても「絶対転倒してクラッシュだ」と
背筋を凍らせた。(現にレイニーは巻き込まれないよう少しアウト側によけてしまった)
ところが、シュワンツは、神のごとく超人的なコントロールでしのぎ切る。
慌てるレイニーを後ろに従え、テクニカルなインフィールドを完璧に抑えチェッカーを受けたのだ。
今のMotoGPと異なり、とてつもなく乗りにくいマシンだったGP500マシンであれほど激しいバトルをした二人は、間違いなくゾーンに入っていた。
モータースポーツではないが、もう一つゾーンに入っていたと思う事例は
2014年ソチ五輪フィギュアスケート女子の浅田真央の演技だ。
この年、浅田は周囲の反対を押し切り、難易度の高いトリプルアクセルを取り入れていたが
なかなか成功率が上がっていなかった。
そしてオリンピック本番、ショートプログラムで調子を崩し、全ジャンプを失敗。
自己ワースト16位となってしまう。
普通なら自暴自棄になってしまうところだが、ここからが浅田真央の凄いところ。
周囲のアドバイスもあり、見失っていた自分を取り戻す。
得点差からメダルは絶望、もはや失うものは何もない。自分が納得いくまで徹底的に攻めた。
冒頭にトリプルアクセルをシーズンで初めて決め、続いて苦手だったルッツとサルコーの3回転も着氷。トゥループ、ループ、フリップを含め、すべてのジャンプを成功させた。
オリンピック史上、6種類全部のトリプルジャンプを8回着氷した初の女子選手となった。
ジャンプだけではない。スピン、スケーティング、スピード、優雅な手足の動き、すべてにおいて
女子スケート史上最高の演技だった。
彼女の舞いは恐ろしく滑らかで、まるで指先からオーラがこぼれ落ちるように余韻があった。
そして、最後のポーズが終わった直後の泣き崩れた顔が、どれほどの想いを込めて滑っていたか、
そしてその演技がどれほどの完成度だったのかを物語っていた。
近年さまざまなジャンルのスポーツが停滞しており、このような感動から遠ざかっている気がする。
また、「ゾーン」に入った選手たちをこの目で見てみたい。
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